みなさん、こんにちは!EYS-STYLE広報の泉です。
先日、YahooとLINEの統合が正式に発表され、大きなニュースとなっていました。報道の中でもよく言われているのが、「日本はテクノロジーで世界に遅れをとっている」ということ。このようなニュースや、GAFAの圧倒的な存在感、中国企業の台頭から、なんとなく日本の存在感の薄さを感じている方は多いでしょう。しかし、日本は何に遅れているのか、このままいくと日本はどうなってしまうのか、具体的なイメージが湧いていない人も多いのではないでしょうか。
本日は、Inspiart事業本部のエンジニアインタビュー企画第2弾として、EYS-STYLEに所属するエンジニア3名に「日本の遅れとはどのような状況を指しているのか、日本と海外は何が違うのか」を具体的に聞いていきます。
実際に海外の大学で学び、企業で働いた経験がある彼らは、日本の状況をどう見ているのか。具体的な事例も織り込みながら、分かりやすく解説してもらいました。これを読めば、良くも悪くも日本の将来にハラハラすること間違いなし!?
インタビューメンバー紹介
金 賢
早稲田大学基幹理工学部応用数理学科卒業、シンガポール国立大学大学院理学研究科数学専攻修了(修士)。卒業後シンガポールで自動運転自動車の時系列データ解析、センサーフュージョン、センサー外れ値検知、物体検出などのモジュールを開発。日本に戻り、音声認識、異常音検知などのプロジェクトに従事。現在は楽曲の自動作成、音源調整技術を開発中。
張 森
千葉大学の飛び入学制度を利用し、17歳で入学。3年で大学を卒業し、総合研究大学院大学で素粒子物理学の博士号を取得。岡山光科学研究所に勤務し、研究を進める傍らITに興味を持つ。SIer、機械学習関連のベンチャー企業を経て、現在はEYS-STYLE Inspiartプロジェクトにて、機械学習による楽曲ミキシングなどの研究開発を担当する。
ハダノウィチ アレクセイ(アレックス)
ベラルーシ出身。東京都市大学卒業後、同大学院にてEnd-to-End音声認識システムの研究・開発を行う。同時にEYS-STYLE Inspiartプロジェクトに参画し、機械学習によるノイズ除去に関する開発を担当。Convolutional LSTMなどのニューラルネットワークアーキテクチャの研究を専門とする。
日本のテクノロジー開発の現状
最近、新聞などで「日本はテクノロジーの研究開発で世界に遅れをとっている」ということが大前提として掲載されているのをよく見ます。具体的には、どのような状況なのでしょうか?
張:
遅れている分野もあれば、リードしている分野もある、というのが正しいと思います。
キム:
例えば、科学技術の分野、バイオ系の細胞の培養などについては、日本は世界一だと思います。しかし、AIや機械学習については遅れています。大きな原因は、データの蓄積がないことですね。
AIの最先端企業と言えば、GoogleなどいわゆるGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)。大学は研究が本業なので、新しい技術開発や精度向上には取り組みますが、実際その技術を利用して社会実装するのは、IT企業です。日本だと技術の民主化という言い方もしますが、これを実現するにはAIの学習データが必要です。GoogleやFacebookは大量のデータの蓄積しています。だから、翻訳や音声認識にしても、英語の精度が圧倒的に高い。日本はそういった、国をまとめるIT企業もありません。
張:
先日、これらの勢力と対抗できる企業を目指して、YahooとLINEの統合がニュースになっていましたね。報道の中で、研究開発費の比較資料が出ていたんですが、YahooとLINEが統合すると、研究開発費は200億円 ※1 程度になるそうです。しかし、それでも他の外国企業と比較すると0が1、2個少ない。売り上げ対比率で見ても少ない。その点でも、やはり遅れています。
※1 Yahoo IR資料 https://www.z-holdings.co.jp/wp-content/uploads/2019/11/jp-joint-press-conference.pdf
※主要国の産業部門の研究費の推移
引用元:経済産業省 産業技術環境局 「我が国の産業技術に関する研究開発 活動の動向 -主要指標と調査データ-」 (令和元年9月)https://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/tech_research/aohon2019.pdf
キム:
研究開発への投資に躊躇しがちというのは、日本の企業では良く聞きます。「それって大学でやれば良いんではないの?」となるようですね。
大学で生まれた技術を、どう社会に持っていくかというのは、企業がお金とデータを投じてやっていくというのが欧米では当たり前ですし、そこに対する理解もあります。日本で周りの企業を見ていても、躊躇しているところは多い。しかしそうなると、いつまでたっても日本で技術が育たないですし、海外で完成された技術を買うことでしか問題解決できないですよね。
研究開発から実際のサービスとして社会実装できるレベルになるまでの間が、企業も大学もどちらも手をつけない状態になっているということですね。
張:
そうですね。いわゆる「産学連携」ができていない。産学連携のマインドに関する日本の遅れは、10年できかない、50年くらい遅れているんではないかと思います。そもそも、企業側の研究開発に対する理解がありませんし、大学側もそういう状況下で動きづらく、意識も薄いと感じます。
政府も産学連携を掲げていますが、そのわりには「国立研究機関の教授は、兼職で企業にアドバイスを勝手にしてはいけない」など、ルールが厳しく、現実的に連携は難しい状況のようです。
学生を支援する制度も同様です。例えば、大学院生の研究を支援する制度があるのですが、かなり厳しい兼業規制がついていて、企業で働くことができませんでした。企業と大学で連携したければ、当然そういう優秀な学生は企業にも出入りして、技術提供などすべきだと思います。学業に集中させる意図があるようでしたが、それならば割合を決めて参加させればいいのに、そういった工夫もない。最近やっと動きがあって、少しだけ兼業規制が緩和されましたが、やはり、日本は学術と経済が一緒にやっていく意識が明らかに低いです。
海外の産学連携はどのような感じなのでしょうか?
キム:
技術を社会に溶け込ませるという意味で、海外では大学発ベンチャーという考え方がありますが、日本はまだ少ない。日本では、大学で1番優秀な人は大手企業に就職しますよね。海外であれば、1番優秀な人は、その技術をもってベンチャー企業を立ち上げます。
※大学発ベンチャー数の推移
引用元:経済産業省 産業技術環境局 「我が国の産業技術に関する研究開発 活動の動向 -主要指標と調査データ-」 (令和元年9月)https://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/tech_research/aohon2019.pdf
張:
日本は先進国なのに、マインドセットが途上国ですよね。
キム:
日本人は、安定した職についてやっていくという意識が強いです。不安定を怖がるんですね。ベンチャー自体が冒険で、失敗したら社会復帰できないんじゃないかという考えがあります。
工学部の博士課程とかには、ニッチな研究をしていて、社会実装できそうな技術を持っている人もいますが、そういう人たちが表に出てこないというのはありますね。
アメリカとかだと、彼らに投資する人が近くにいるので、「この技術で挑戦してみよう!」ということになる。シリコンバレーにはベンチャー企業がいっぱいあるのですが、その近くにあるスタンフォード大学は産学連携がうまくできていて、企業との共同研究も多いです。そこから、シリコンバレーでベンチャー企業を立ち上げるとか、参加して一緒に開発するという話になるんですね。皆さんもご存知の通り、Googleもスタンフォード大学の学生が集まって、論文検索エンジンを開発したのが始まりです。
張:
正直、これほど産学連携が進んでいない中で、日本の技術はよくここまで成長したものだと思います。
Chainerという日本が開発したフレームワークがあって、GoogleやFacebookと比較すれば小さいものですが、アメリカ以外でオープンソースのフレームワークを作っているところは、多分日本くらいなんですよ。そういう意味では、技術はあるのだと思います。しかし、それで会社を作ってうまくいくかというと、微妙ですね。
日本は理工系人材の地位が低い!?
皆さんは海外から日本にやってきた方や、海外で働いた経験もある方ですが、日本は理工系人材(エンジニア、研究者など)の地位が低いとか、給料が低いという話も、報道でよく見かけます。
張:
給料は1.5〜2 倍くらい違う気がします。最近は日本企業も人材の取り合いで、エンジニアの給料を上げる傾向が出てきましたが、日本は税金も高いですし、可処分所得で見たら、やはりかなり差があるんじゃないでしょうか。技術面でもリードしているアメリカや中国は、やはり待遇も良いですし、エンジニアを育てる環境も整っていますね。
アレックス:
でも、給料よりも「どんな環境で生活したいか」を優先して日本にいる人は多いと思いますよ。世界中のどの国を見ても、日本ほど住みやすい国は少ないですからね。エンジニアの地位はともかく、安全、綺麗、便利、親切…これらの要素は、生活する上で本当に大切です。
あと、カナダは住みやすいし、エンジニアのこともそれなりに評価している国だと思います。
キム:
エンジニアに市民権がある国というと、シンガポールは良かったですよ。スタートアップではないけれど、エンジニアが頑張って企業の成長を引っ張ろう!という雰囲気があります。専門家を大切にする文化でしたね。もちろん、給料や税金の面でも日本より良かったです。
日本はどこで間違ったのか
日本もかつては技術力で世界をリードし、高度成長期には爆発的な成長を遂げました。しかし、現在は皆さんがおっしゃる通り、世界に遅れをとっている。日本はどこで、何を間違ってしまったのでしょうか。
張:
僕が小学生のとき、90年代は、日本はそれこそ憧れの国でしたよ。日本のウォークマンが初めて出たときには「こんなに小さいのか!」と。
日本に来て始めの方は、アカデミーにいることが多かったのですが、日本の行政のやり方がまずいのだと思っていたんですよ。でも、日本はすごい国だから、民間企業は違うだろうと思っていた。しかし、実際に民間に出てみたら、こっちもまずかった。がっかりしましたね(笑)
やっぱり一言で言うと「慢心」なんじゃないでしょうか。高度成長期を経験した日本は、自国は改善する必要がないと潜在意識で思い込んでいる。
キム:
「日本は強い」と盲目的に信じている人が多いですね。英語力が弱いところも、日本を客観的に捉えられていない原因の一つだとは思います。
先ほどのウォークマンも、ipodの登場で一気に押されてしまいましたよね。世界に対して目が向かないという事自体が、慢心なんですよね。内需を取ることを先に考えてしまって、外需に目がいっていない。日本の中での過渡競争が激しくて、日本企業はまだ国内で戦っている。しかし韓国のSAMSUNG、LGなんかは外需を取りに行く。例えば東南アジアでは、日本企業ってあんまり知られていないんですよ。SAMSUNGとLGの製品が人気です。
これから外に目が向いていくのかな?
張:
そういうきっかけがあればいいですけどね。
日本の製品は、どの面で海外企業に負けているのでしょうか?品質でしょうか、価格でしょうか?
キム:
以前気になって調べてみたときには、SAMSUNGはアフターケアが良いので、選ばれているという記事を見ました。故障の保証とかが、最初から付いているようですね。日本の製品は品質は良いのですが、完璧にならないと市場に出さない。「壊れても直しますよ」という程で動くか、完璧なものを目指して「壊れても知りません」というのと。大切なことではあるのですが、日本は最初の構想が大きいと思います。その結果、出遅れてしまう。
海外へ流出する優秀な人材
日本の研究開発が遅れている背景には、産官学全てに原因があることがよくわかりました。そうなると、日本よりは海外で働くことを選ぶ人材も多そうです。
張:
そうですね。やはりできるエンジニアは海外に行ってしまいます。
特にここ5年くらいは流出が激しい。僕の周りの状況もそうです。明らかに加速している。
キム:
日本で定年を迎えたエンジニアや研究者が、中国で雇われているという話は良く聞きます。
張:
先日も、物理の高名な先生が、定年退職して中国の大学に行かれました。そこから、さらに教え子の科学者を中国に呼び寄せている。日本にいると大学の研究費も削減されて少ないですし、使おうとするとあちこち制度的な壁も高いし、活躍しづらいんですよね。
優秀な人材の流出は、将来的に日本が海外にさらに遅れを取ることの予告と言えます。国家的な危機ですね。
後編は、大学の授業や学び方、働き方や人生の価値観という面からも、日本と海外の違いをお聞きしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
いかがでしたでしょうか?私(泉)は「企業の製品開発」が海外に遅れをとっているのかと思っていましたが、研究開発に関わる産官学の広い範囲にまたがって、様々な問題が複合的に関係していることがわかりました。
後編では大学の授業の進め方やテストの方式など、教育の違いについても取り上げます。現役大学院生として学びながら、EYS-STYLEで働いているアレックスさんからは、耳が痛いリアルな意見も。後編も近日アップ予定ですので、楽しみにお待ち下さい。
また、EYS-STYLEのコーポレートブログには、今回のインタビューに協力しているキムさん、張さん、アレックスさんのブログもアップされています。中には中国語やロシア語の記事もありますが、ぜひご一読ください!