EYS-STYLE社長の吉岡が、空間デザイナー鬼木氏の才能に惚れこみ実現した「EYSマテリアルデザインスタジオ」新規オープンプロジェクト。改めて、当時空間デザインを担当されたODS鬼木氏に、そのデザインに込めた想いを語っていただきました。
■2014年:社長吉岡、鬼木氏を見つける
EYSが鬼木氏にファーストコンタクトを取ったのは、2014年。当時、鬼木氏は「nendo」の建築デザイナーでした。「nendo」といえば、佐藤オオキ氏を中心に世界の人々を虜にする幾多ものプロジェクト手掛けるデザインスタジオ。その中核を担う建築デザイナーとして活躍していたのが鬼木氏だったのです。鬼木氏のデザインに惚れこんだ吉岡は、EYSの新スタジオの設計を依頼。その時既に「nendo」から独立し、自らのデザインスタジオ「ODS」の設立を決めていましたが、「それでも構わない、一緒に前例のないものを作りましょう!」と計画はスタートしたのです。
■2015年デザイン開始:EYSに相応しいスタジオとは
どんなデザインを作るのか、その起点となるのがEYSの理念=ビジョンです。EYSが何を考え、どのように動き、どこへ向かおうとしているのか――その根底にあるものを伝え共有することが、その一歩となります。吉岡は鬼木氏に、音楽ビジネスと業界を取り巻く環境やその問題点。その上で新たにEYSが取り組んでいることを伝えました。例えば、今やEYSの代名詞になった『楽器プレゼント』は、音楽を始めたい人々のハードルとなっていた『楽器を買わないと、音楽をスタートできない』という思い込みを排除することから発想したビジネスだった、という話も含まれます。鬼木氏は、吉岡の話をあらゆる角度から聞き、デザインのコンセプトを固めていきました。
「吉岡さんはとても興味深い人です。すごくいい意味で“普通ではない”。私はあまり収支など、ビジネス視点ばかりの場は不得意なのですが、吉岡さんは経営者としてその点を踏まえつつも、文化や芸術の面にも造詣が深く、デザインに関しても自分のイメージをきちんと持っているので、話しやすかったですね」と鬼木氏は言います。
そんなやり取りの中で、鬼木氏が『様々な楽器に使われている素材を、空間デザインの建築資材として用い、“セッション”のイメージを表現できないか』と、直感的に閃いたのは、かなり早い段階でした。吉岡との対話が進むうちにその想いは強まり、やがてそのアイデアは、「楽器はひとりきりで演奏するだけではなく、皆でセッションをするからこそ面白い!それを多くの人に知って欲しい」というEYSのコンセプトにつながっていきました。
『セッションを感じられる空間にしたい』……でも、どうやって!? 鬼木氏は悩みます。調べると、楽器の素材と建築の資材には多くの共通点があることが分かりました。それらをどのようにデザインに落とし込めば、面白い空間になるのか。楽器に用いられている素材を方々から集め、加工し、建築デザインに落とし込んでみる…短い工期の中で鬼木氏は悩み考え抜いていきました。
■2016年春:スタジオOpen!
その答えが、川崎と三ノ宮のスタジオエントランスに象徴されるアールの効いた壁、そして続く壁面に表現されています。フルートのシルバー、サックスの真鍮、ギター等のスプルス材といった素材で作られた壁は、様々な楽器を連想させてくれます。また流れるような曲線を持つ壁面は、大人たちを音楽という愉しみ溢れる世界へと、温かく迎え入れてくれます。シンプル・シックな鬼木ワールド全開なデザインであると共に、EYSだけの「大人の音楽空間」が誕生。大人たちが自分の好きな音楽と向き合い、セッションすることを楽しむ、EYSのコンセプトを体現する空間になりました。
「楽器はどんな素材から作られているのか、とことん調べていく中で、一つひとつの素材の使われ方や加工の細やかさ、さらにこんなに複雑なことができるものなのか!といった驚きを感じることもあって多くを得ることができました。素材に向き合うことは、基本を学び直すということでもあります。改めて建築の魅力や奥深さを見直す機会となりました。独立直後にいただいた仕事ということもあり、原点回帰という意味でもやらせてもらい本当に良かったと思っています」と鬼木氏は振り返ります。
■今後にも期待!
その後も、吉岡から鬼木氏へ、デザインに関する相談することもあり、その関係は続いています。「吉岡さんは、常に新しいことを考えているのでいつも刺激をもらっています。またご一緒できたら嬉しいですね」。EYSも、鬼木氏も、常に進化し続けていきます。そんな両者が再び共に何かを生み出そうとする時、どんな化学反応が起きるのか…それをいち早くみてみたいと、音楽を愛する多くの人々が期待しているのではないでしょうか。
お話してくださった方
鬼木 孝一郎 氏
ODS(鬼木デザインスタジオ)代表取締役
1977東京生まれ。早稲田大学大学院卒業後、株式会社日建設計勤務。その後、有限会社nendo入社。10年間にわたりチーフディレクターとして国内外の空間デザインを手掛ける。2015年鬼木デザインスタジオ設立。2017年、株式会社鬼木デザインスタジオに組織変更。建築、インテリア、展示会の空間デザインなど数々の空間デザインを手掛け多方面にて活躍中。JCD賞金賞、JID賞大賞など受賞歴多数。