音楽教室として代々木の貸スタジオを拠点に活動し始めたEYS。その黎明期ともいえる時代には、「音楽を純粋に楽しむ」というEYSの精神が、やや荒削りながらも今よりわかりやすい形でレッスンの内容に克明に反映されていたのだそう。貸しスタジオでのレッスン内容や当時の様子について、EYS執行役員の鮎澤さんに伺いました。
■良くも悪くも自由で、音楽教室としては型破り。だからこそ面白かった。
ーーレッスン概要について教えてください。
カラオケなどの店舗を借りる場合、最近は月極が普通ですが、当時、お借りしていた貸スタジオでは、毎回、1コマずつ都度借りしていました。生徒さんから提案いただいたレッスンの候補日を講師がEYSに連絡。EYSがスタジオに空室状況を確認し、部屋を予約するという流れです。
一般的な音楽教室では、コースごとに年間または月々のレッスン回数などが事前に決められています。たとえば半年分などまとまった期間のスケジュールを担当講師から生徒さんにご案内するのが普通です。
ところが貸スタジオでは、生徒さんからの打診を受けて講師のスケジュールを調整し、部屋を押さえます。すると当然、候補日のスケジュールがすべて埋まっていて押さえられないというトラブルが多発していました(笑)。
ーーレッスンは現在と同じようなスタイルですか?
当時は、講師と生徒さんがそれぞれ個人情報を交換して、EYSが介在することなく勝手にレッスンを進めるスタイルでした。
このスタイルだと自由度が大きいので良い面も多いのですが、なかには適当な講師の方もいて、「講師と連絡が取れない」「レッスンができない」などのクレームが出ることもあったように覚えています。
もちろん、そうした講師の方々にはすぐにお引き取りをお願いしました(笑)。
スタジオを都度借りするという方法は、改めて考えるまでもなく理にかなわないものです。いろいろな弊害もありましたが、振り返ってみれば、EYSの自由な気風が培われるきっかけだったのかもしれません。貸スタジオとの契約形態は、良い意味でEYSらしさを象徴するものだったといえると思います。
■音楽教室とは本来、音楽を楽しみたい人が集まれば成り立つもの。
ーー当時のレッスン内容はどのようなものでしたか?
当時のレッスンについて説明するには、まずEYSのコンセプトについてお話する必要があると思います。EYS、すなわち“Enjoy Your Sound”という言葉の根底にあるのは、楽譜通りの正確な演奏を目指すのではなく、演奏を楽しむ過程そのものが宝物だという考えです。
正しい間(ま)やブレスの位置、ミストーンなどはあまり気にせずに気楽に音を発信してください、たとえそれが楽譜上の表記とは違っているとしても、EYSでは正しいものとして認めますというのが基本的なスタンスです。
ーー音楽を“習う”というより、音楽好きが集まって“楽しむ”感覚に近いですね?
この考え方は、住宅車庫を利用して日常的に音楽を楽しむ、アメリカのガレージロック文化の感覚ととても似ています。アメリカの大都市郊外には、車庫にドラムセット、ギターにベース、アンプがある世帯が多く、周囲から自然に人が集まって遊び感覚で音楽を楽しむ風潮があって……。
たとえばブルースだったら、Aマイナーのペンタトニックスケールのように進行が決まっているので、それぞれがスキルを駆使してトリックを決めるなど、気軽に音楽を楽しむことができるというわけです。
「これは正しい、あれは間違っている」という、キリスト教的な二項対立の考え方とは、対極にある考え方ですね。
貸スタジオの時代から、正しい技術を仕込むのではなく、そうやって純粋に演奏を楽しむというスタイルが徹底されていました。間違いを一つ一つ指摘して正していくというよりは、たとえば「こうした方がかっこいいよね」という具合ですね。
■「ハコ」が変わった今も、当時の精神が受け継がれている。
ーーEYSとほかの音楽教室とではレッスン内容に違いがありましたか?
当時のレッスンは、やはり今よりさらに自由な空気があったように思います。当時、私が講師として掛け持ちしていた他の教室では、たとえば「今日はこの曲のこの部分を教えてください」と内容を細かく指示されたものでしたが、EYSは生徒さんに楽しんでもらえればいいので勝手にやってくださいというスタイル。生徒さんがYouTubeから拾ってきた動画の演奏を譜面に起こして、レッスンで使用したこともありました。
ーー自由な気風は今も受け継がれていますね?
その後、自社スタジオに移転し、講師の顔ぶれは大きく様変わりしましたが、「音楽を純粋に楽しむ」という基本的なスタンスは変わっていません。あとは、「セカンド・コミュニティ」を大切にする点にもブレがありませんね。
レッスンに通って楽器がある程度できるようになってきたら、バンドを組んで練習を楽しんだり、食事をしながら演奏する曲目や将来的なライブの日程などについて話して盛り上がったり……。
EYSでは、そうやって音楽など趣味を通じたお付き合い、生活を豊かにするための交際関係のことを、ご家族やお仕事といった生活のインフラともいうべき、一次的なお付き合いとは別の段階にあるものとして「セカンド・コミュニティ」と位置づけています。
セッションだけでなく、仲間との交流を含めたコミュニケーションによって人生をより充実したものにしていただきたいという姿勢はいまも変わっていません。